佳き時代の美学との邂逅

佳き時代のアンティークウォッチには、現行モデルにはない深い魅力がある。中でもオールドパテックの味わいは格別だ。アンティークウォッチのスペシャリストにして、独立時計師の作品やオリジナルウォッチも取り扱い、時計愛好家の間でつとに知られた存在であるシェルマン 銀座店を訪ねて、その世界観に存分に触れてみたい。

Text Yasushi Matsuami

佳き時代のアンティークウォッチには、現行モデルにはない深い魅力がある。中でもオールドパテックの味わいは格別だ。アンティークウォッチのスペシャリストにして、独立時計師の作品やオリジナルウォッチも取り扱い、時計愛好家の間でつとに知られた存在であるシェルマン 銀座店を訪ねて、その世界観に存分に触れてみたい。

パテック フィリップRef.2526
1958年に製造された陶製のトロピカルダイヤルを採用した逸品。名機Cal.12-600ATを搭載する。純正のYGブレスレット仕様で、ラグジュアリーな気品を感じさせる一本。「パテック フィリップRef.2526」自動巻き、ケース径35㎜、YGケース×YGブレスレット、8,208,000円。

シェルマンの創業は1971年。アンティークを取り扱って半世紀近い歴史を持つ。蓄音機や西洋骨董などからスタートし、腕時計にも力を傾け、2000年に銀座みゆき通りに旗艦店と言うべきシェルマン 銀座店をオープンさせた。現在、この他に青山店、新宿伊勢丹、銀座三越、銀座と六本木のバーニーズニューヨークにも展開を広げている。

代表取締役の磯貝吉秀氏は、ロボットなどを扱う商社マンだったが、82年から二人の兄が始めたアンティークの仕事に参加し、往年の腕時計にすっかり魅せられてしまった。

「ロボットの世界は日進月歩が当たり前。ところがアンティークウォッチは真逆の世界。現在の時計より、1950年代以前のものの方が、作り込みにしろ、仕上げにしろ、完成度が高い。衝撃を受けました」

腕時計の黄金期は、1950年代と言われる。20年代に腕時計が登場以降、徐々に技術が進化、50年代に手作業による時計製造・仕上げ技術はピークを迎える。当時、腕時計は大変高価なものであり、その趣味性を反映し、贅を尽くしたモデルも生み出されていく。60~ 70年代以降は量産化・効率化が時代の要請となり、手のかかった作り込みは薄らいでいく。そんな時代を迎える前の美学が、アンティークウォッチには詰まっているのだ。言うまでもなく、当時のパテック フィリップの完成度は格別だ。

「機械の妥協のない作り込みや、ディテールまで手間ひまのかかった繊細な仕上げはもちろん、ケースの金色一つとっても、これ見よがしでなく自然な上品さがあります」

  • パテック フィリップ Ref.1593 パテック フィリップ Ref.1593
    1952年製のモデル。中央がくびれた“フレアード”と呼ばれる、3D感に富んだ流麗なフォルムを特徴とする。全く磨きのかかっていない当時の状態で、ベルトまでそのまま残された一本。ケースバックに、何らかの記念に贈られた品であることを示すエングレーブがある。Cal.9-90を搭載。「パテック フィリップ Ref.1593」手巻き、サイズ32×21㎜、YGケース×レザーストラップ、7,560,000円。
  • パテック フィリップ ワンプッシュクロノグラフ セクターダイヤル懐中時計 パテック フィリップ ワンプッシュクロノグラフ セクターダイヤル懐中時計
    1930年代に、別注で製作されたと推察される懐中時計。1910年代に作られたワンプッシュクロノグラフ ムーブメント(Cal.19’’’)を搭載。円環と放射状を組み合わせた意匠のセクターダイヤルには、レイルウェイトラックやパルスメーターが刻まれ、見事な仕上がり。「パテック フィリップ ワンプッシュクロノグラフ セクターダイヤル懐中時計」手巻き、ケース径50㎜、YGケース、6,480,000円。
  • パテック フィリップ Ref.1593
  • パテック フィリップ ワンプッシュクロノグラフ セクターダイヤル懐中時計

中でも、トロピカルと呼ばれる陶製文字盤のRef.2526に、磯貝氏は心を奪われたと言う。

「トロピカル文字盤ならではの味わい深さや、名機と言われる自動巻きCal.12-600の仕上げもほれぼれします。トロピカルは1950年代に約2700本が作られましたが、シェルマンでは200本以上を取り扱っております。おそらく世界一だと思います」

これだけでなく、シェルマンには、スペシャリストならではの目線で買い付けたパテック フィリップの逸品がそろう。ここには、「トロピカル」のオリジナルブレスレットタイプと、「世界で最も美しい時計」と称賛された“フレアード”と呼ばれるモデル、1910年代製のムーブメントによる、ワンプッシュクロノグラフ懐中時計を紹介している。

「現在の高級時計は、ショーウィンドー映えするインパクトはありますが、アンティークの良品はシンプルでサイズが小さくても、バランスがよく、手にのせたときの存在感やなじみ方が違います。ルーペで見れば、仕上げの違いも一目瞭然。これだけのクオリティーは、もう作れません」

良質なオールドパテックは、数が限られているゆえ、価格も上昇傾向にあり資産価値も高い。しかしそれ以上に、一生付き合える、愛着の湧く時計は人生を豊かにする。シェルマン 銀座店で、そんな一本と出会ってはいかがだろう。

●シェルマン 銀座店 TEL03-5568-1234

※『Nile’s NILE』2018年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

What is luxury?

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Questioning this has now become synonymous with confronting the times. We are now witnessing a transformation of values on a global scale.
Sustainable, SDGs, ESG...... these terms are becoming a natural part of our daily lives. Many brands and companies have already begun to take this stance, as individuals and society as a whole are expected to become more aware of the importance of sustainability. In "NILE PORT," we would like to rethink and re-present luxury in the current era, sharing our values with brands and readers who have a progressive awareness.