
シェルマンの創業は1971年。アンティークを取り扱って半世紀近い歴史を持つ。蓄音機や西洋骨董などからスタートし、腕時計にも力を傾け、2000年に銀座みゆき通りに旗艦店と言うべきシェルマン 銀座店をオープンさせた。現在、この他に青山店、新宿伊勢丹、銀座三越、銀座と六本木のバーニーズニューヨークにも展開を広げている。
代表取締役の磯貝吉秀氏は、ロボットなどを扱う商社マンだったが、82年から二人の兄が始めたアンティークの仕事に参加し、往年の腕時計にすっかり魅せられてしまった。
「ロボットの世界は日進月歩が当たり前。ところがアンティークウォッチは真逆の世界。現在の時計より、1950年代以前のものの方が、作り込みにしろ、仕上げにしろ、完成度が高い。衝撃を受けました」
腕時計の黄金期は、1950年代と言われる。20年代に腕時計が登場以降、徐々に技術が進化、50年代に手作業による時計製造・仕上げ技術はピークを迎える。当時、腕時計は大変高価なものであり、その趣味性を反映し、贅を尽くしたモデルも生み出されていく。60~ 70年代以降は量産化・効率化が時代の要請となり、手のかかった作り込みは薄らいでいく。そんな時代を迎える前の美学が、アンティークウォッチには詰まっているのだ。言うまでもなく、当時のパテック フィリップの完成度は格別だ。
「機械の妥協のない作り込みや、ディテールまで手間ひまのかかった繊細な仕上げはもちろん、ケースの金色一つとっても、これ見よがしでなく自然な上品さがあります」
中でも、トロピカルと呼ばれる陶製文字盤のRef.2526に、磯貝氏は心を奪われたと言う。
「トロピカル文字盤ならではの味わい深さや、名機と言われる自動巻きCal.12-600の仕上げもほれぼれします。トロピカルは1950年代に約2700本が作られましたが、シェルマンでは200本以上を取り扱っております。おそらく世界一だと思います」
これだけでなく、シェルマンには、スペシャリストならではの目線で買い付けたパテック フィリップの逸品がそろう。ここには、「トロピカル」のオリジナルブレスレットタイプと、「世界で最も美しい時計」と称賛された“フレアード”と呼ばれるモデル、1910年代製のムーブメントによる、ワンプッシュクロノグラフ懐中時計を紹介している。
「現在の高級時計は、ショーウィンドー映えするインパクトはありますが、アンティークの良品はシンプルでサイズが小さくても、バランスがよく、手にのせたときの存在感やなじみ方が違います。ルーペで見れば、仕上げの違いも一目瞭然。これだけのクオリティーは、もう作れません」
良質なオールドパテックは、数が限られているゆえ、価格も上昇傾向にあり資産価値も高い。しかしそれ以上に、一生付き合える、愛着の湧く時計は人生を豊かにする。シェルマン 銀座店で、そんな一本と出会ってはいかがだろう。
●シェルマン 銀座店 TEL03-5568-1234
※『Nile’s NILE』2018年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています