スポーツカーには、大きく言うと、二つの楽しみがある。
一つは見せびらかす楽しみ。もう一つは、アルピーヌA110に代表される、わかる人にはわかるクルマに乗る、ちょっとひそやかな楽しみだ。愉悦という言葉がもっとぴったりくるかもしれない。
A110はフランスの生んだスポーツカーだ。工場の生産キャパシティーの問題から、デリバリー数が限られているので希少性も高い。乗っていると、クルマ好きが「あ、アルピーヌだ」と振り向く。イタリア製のスーパースポーツカーだって、今やそんなことは起きない。そして希少性だけではない。スポーツカーとして、注目すべき存在である。
アルピーヌは1950年代から70年代にかけて、優れたスポーツカーを作り、モータースポーツにも積極的に参加した。ミッレミリアを始め、世界ラリー選手権やルマン24時間レースでの高成績で名声を確立したのだ。
初代A110は往時のアルピーヌの代表車種である。62年から77年まで作られた二人乗りのスポーツカーで、社名「アルピーヌ」の通り、欧州アルプスを始めとする山岳路のレースで勝つという目的を十二分に達成した。
現代のA110は、名前だけ借りてきたわけではない。コンパクトな車体、運転しての楽しさ、そしてスタイル。美点をすべて継承したうえで、洗練させている。
現在のアルピーヌA110は、1.8リッターエンジンをミッドシップしている。乗ると、スポーツカーの真価とは、エンジンの気筒数や排気量で決まるものではないとわかるはずだ。
252馬力のパワーは1.1トン程度の軽量ボディーには十分過ぎるほどで、静止から時速100キロまでは4.5秒で加速する。
操縦性はシャープで、山道ではこのうえなく楽しい。イタリアやイギリスやドイツのスーパースポーツカーと同等の走りのよさが、全長4.2メートルというコンパクトなボディーで得られるのも、大きな特長である。
クオリティー感は高い。とりわけインテリアは、人工スエード巻きのステアリングホイールや、クロスステッチのレザー張りのバケットシート、それにレーシングカーのようなテレメーターが備わる。スポーツカーとして不足は一切ない。
アルピーヌA110に初めて接した時、作家の故・伊丹十三氏のことを思い出した。当時、日本人はほとんど知らなかった、しかし欧米ではとても評価が高かったロータス・エランという小型スポーツカーに東京で乗っていた。有名ではない本物を愛する、というのが恐らく伊丹十三氏の価値観だったのだろう。
これみよがしでない外観のアルピーヌA110に乗っている人にも同様のカッコよさを感じる。人生の楽しみを求めていたら、その答えがこのクルマだと知っているからだ。大人のためのスポーツカーである。
ALPINE A110 PURE
ボディー:全長4205×全幅1800×全高1250㎜
エンジン:1.8ℓ 直列4気筒直噴ターボ
最高出力:185kW(252ps)/6000rpm
最大トルク:320Nm(32.6kgm)/2000rpm
駆動方式:MR
トランスミッション:7速AT
価格:7,900,000円~
●アルピーヌ コール TEL 0800-1238-110
※『Nile’s NILE』2019年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています