徳島県鳴門―古くから、東から来る人にとって四国への玄関口である。現在、淡路島との間の鳴門海峡には、大鳴門橋が架けられ、1日約2万5000台ものクルマが行き交っている。その大鳴門橋の下には、渦潮が音を立てうごめいている。世界三大潮流の一つとされる鳴門の渦潮は、大きいもので直径20m、潮の流れは時速20㎞にもなり、世界一の大きさと速さを誇るという。これだけ大きくて速い渦潮が発生する秘密は、鳴門海峡独特の海底の地形と、潮流にある。そのメカニズムはこうだ。まず、太平洋側が満潮となり、紀伊水道から入ってきた海水は約6時間かけて淡路島を1周し鳴門海峡に流れ込む。
この時、淡路島の南岸ではすでに干潮になっており、今度は瀬戸内海に集まった多方向からの海水が水位の低い太平洋側へ出ようと、鳴門海峡に一気に押し寄せる。つまり、鳴門海峡を境目に海面に高低差が生じ、この落差が高速の潮流を生み出す。加えて鳴門海峡が約1.3㎞と狭いことと、海底がV字形に深く落ち込み、最深部は90mにも達するように起伏に富んでいるため、流れの速い潮が遅い潮にぶつかり、渦巻が発生するのだ。
だから鳴門海峡の最も狭い場所に渦潮ができるのである。今は、大鳴門橋が架かっているから渦潮を真下に見ながら通れるが、船で渡っていた時代からここ鳴門は、四国の玄関口として機能していた。それは、なぜか。潮の流れが穏やかな小鳴門海峡を利用したからである。小鳴門海峡は、鳴門海峡の西側、島田(しまだ) 島や大毛(おおげ) 島と四国本土の間にあるため、運河のように流れは穏やか。多くの船は激流の鳴門海峡を通ることなく、小鳴門海峡を南下して撫養港を目指した。
16世紀から交通の要衝となっていたこの撫養港を機能的にしたのは、徳島藩の藩祖である蜂須賀家政だ。家政は、阿波へ入国したばかりの1585(天正13)年に、淡路の福良から鳴門へ渡海する船頭10人を選んで渡海の役につかせ、1591(天正19)年には彼らの家を岡崎に移転。阿波の入り口である撫養に、“よき足”を確保したのである。明治に入り御番所が廃止された後も、そのほとんどは船問屋に所属し、渡海業に携わって、撫養港の発展を支え続けた。その後も、さまざまな海運業の汽船や西洋型帆船が入港し、盛況を呈した。
もう一つ、家政が整備したのが阿波の五街道。その一つの撫養街道は、撫養港から吉野川北岸を西走して、池田町で五街道の一つ伊予街道に交わる67.3㎞の道。江戸時代中期以降、四国八十八カ所を巡礼するお遍路さんは、まず撫養港に上陸し、撫養街道を歩いて第1番札所の霊山寺に向かった。そのため撫養街道は、“歩き遍路の道”として、また、阿波の名産である藍や葉たばこ、塩を撫養港まで運ぶ“商の道”として、人や物が激しく往来した。
今は、静かでゆったりとしたたたずまいの、撫養の港や旧街道、そして小鳴門海峡。四国の玄関口、交通の要衝として在り続けた鳴門の、土地に刻まれた記憶をたどり、キャデラックCT6を走らせた。
海のそばのドライブはいいものだ。一番いいのは、終点がないからかもしれない。山道はそのうち山の反対側に出てしまう。それに対して、周囲の景色が変わっていくのを眺めながら、クルマをどこまでも走らせていく感覚こそ、醍醐味だと思う。
今回、新しくなったキャデラックCT6で、淡路島から徳島の鳴門までドライブした時、サンフランシスコからハイウェー1という道を通って、ゴルフ場で知られるペブルビーチへと出かけたことを思い出していた。米国でCT6はひときわ存在感のあるモデルだ。キャデラックのセダンの最高峰であるばかりか、日本車とドイツ車とも違う、独自の個性を持ったエレガントさとスポーティーさをバランスさせたスタイリングが大きな理由の一つだろう。
実は今回、行く先々でキャデラックが話題になったのである。「今のキャデラックってこんな姿なんですね。スタイリッシュですねえ」という意見が多かった気がする。
出かけた先は、鳴門の中でも最も淡路島に近い大毛島と島田島だ。島と島、島と四国本土は橋で結ばれている。中でも1985年に開通したつり橋の大鳴門橋が有名である。
1629mの橋長を走り、淡路島から大毛島へと向かう途中、眼下に渦潮を見ることができる。キャデラックCT6からも潮流が大きくぶつかり白波が立つさまをちらりと眺めることができた。自然の力を感じて、気分が沸き立つようだ。
流れるという言葉を聞くと、クルマ好きはすぐ空力を連想してしまう。6月に日本で発売された新しいCT6は、実際に流麗なシェイプをしている。3.6リッターV6エンジンに、新たな10段オートマチック変速機の組み合わせが新型の特徴で、神戸から淡路島を横断して鳴門までなど、一切の疲労を感じさせない。重厚なボディーとよく動く足回りによる乗り心地の快適さも特筆ものだ。
鳴門の島田島は高低差が大きいところが魅力である。中高速コーナーが連続するワインディングロードを上がっていくと、景色が開けて、瀬戸内海の景色を眼下に楽しむことができる。
ここには瀬戸内を望む国立公園の中にホテルリッジがたたずむ。平屋のビラタイプの宿泊棟が並び、それらをクルマ寄せのあるレセプションからは、日本伝統の黒塀のような目隠しでうまく隠している。そのデザインがまた風情を生んでいるのである。そこにキャデラックCT6を乗りつけると、堂々たる美丈夫ぶりを見せてくれる。
CT6でのドライブで“寄港地”を見つけたら、部屋のデッキから鳴門海峡をゆっくり眺めるもよし、やわらかな温泉で湯あみをするのもよし、ホテルの名に由来するカリフォルニアワイン「リッジ」とともに美食を楽しむもよし。
海の周りの道にほぼ終わりがないように、CT6に乗っていたら、本当は止まるのが嫌になるかもしれない。いい旅とはそういうものだ。
Cadillac CT6
ボディー:全長5230╳全幅1885╳全高1495㎜
エンジン:3.6ℓ V型6気筒DOHC
最高出力:250kW(340PS)/6900rpm
最大トルク:386N・m(39.4kg・m)/5300rpm
駆動方式:AWD
トランスミッション:10速AT
価格:10,260,000円
●GMジャパン・カスタマー・センター TEL0120-711-276
※『Nile’s NILE』2019年7月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています