一方、ライトは帝国ホテルの設計という仕事をどう受け止めたのか。おそらく一つの良い転機になると喜んだのではないかと推察する。というのもちょうどその頃、「プレイリースタイル(草原様式)」と呼ばれる独自のスタイルで一躍“建築業界の寵児”に躍り出た彼だが、さらなる進化と新しい刺激を求めていたのではないかと思われるからだ。日本での仕事は心機一転して新たな世界を切り開くうえで、一服の清涼剤になったに違いない。それは、 1923(大正12)年に開業した帝国ホテル2代目本館、通称・ライト館のすばらしさが如実に物語る。
帝国ホテル2代目本館の最大の特徴は、建物の内外に大谷石と黄色いスダレ煉瓦(スクラッチタイル)を多用し、そこに施した多彩な幾何学模様により独特な世界を描出しているところ。中央に池を配したシンメトリーな構造が圧倒的な存在感をもって見る者の心に迫ってくる。また壁画や彫刻、家具、敷物、照明器具、食器など、インテリアの大半をライトが自ら手掛けたあたり、建築とインテリアとの調和を重視する理念が貫かれていると感じる。