さえずり®とはヒゲクジラの舌のことで、鰹出汁にこのさえずり®を入れ、独自の仕込みで作った出汁が「たこ梅」の味だ。関東煮に鯨の舌を入れたのは梅次郎のアイデアで、客が口の中で鯨の舌を噛(か)む音が「小鳥のさえずりのようだ」と名づけたという。前日の出汁に新しい出汁を足し、食材の旨みを含んで日々引き継がれてきた秘伝の出汁だ。
おでんとの違いについて「たこ梅」本店の店長、和田訓行氏は言う。
「おでんは、沸騰させずに温めますよね。それに、何を食べてもおでんの味になる。うちの関東煮は、ある程度味が入ると、それ以上味がいかないように食材がコーティングされるので、沸騰させています。じゃがいもならじゃがいも、大根なら大根の、食材そのものの味がするのが関東煮。浅く炊くということではなく、こんにゃくなら5日、さえずり®なら1週間仕込んで、しっかり味をしみこませています」
「かんとだき」という名の由来は、中国・広東省の人がごった煮を食べているものを見て、アレンジしたからだという説もある。広東省の「カントンだき」を、大阪風に縮めて「かんとだき」。諸説あるが、単純に関東のおでんを大阪に持ってきたわけではないので、ちくわぶやはんぺんはない。
たこ甘露煮は、真蛸(まだこ)を伝統の出汁で炊いた、店に来た客が必ず食べるという定番。江戸時代、いい酒を上々に燗(かん)をつけて出す店のことを「上燗屋」といい、梅次郎が上燗屋として店を始めたことから以来、酒にもこだわっている。西宮の宮水と兵庫県産の山田錦から醸された純米酒を、ハンドメイドの錫(すず)のタンポで湯煎し、じっくりと燗をつけていく。錫の持つイオンでまろやかさを増した酒が、関東煮のやさしい味わいにぴたりと合う。
鯨のさえずり®は今は900円だが、30~40年前の一時期は1本1500円の超高級品だった。普通のサラリーマンには手の出せない値段だったからこそ、「たこ梅で食べられるようになれば一人前や」というステータスになったという。今は店長の和田氏の采配で、若い世代も積極的に招き入れ、卵や大根など安くて旨い種から味わってもらう。スタイルは変わっても、決して変えないのは店の味だ。
「親が子を連れ、子が成長してその子を連れてと、3世代、4世代で来ていただいているお客様が多いのがたこ梅です。15年ぶりに来たお客様にも『そう、この味や』と言ってもらえれば勝ち。そこは、受け継いでいかなあかんな、と思うてます」
●たこ梅本店
大阪市中央区道頓堀1-1-8
TEL06-6211-6201
※『Nile’s NILE』2018年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています