受け継がれる170年の出汁

上等な酒と鯨のさえずり®、たこ甘露煮。この三つが、おでん屋(大阪でいうところの関東煮屋「かんとだきや」)「たこ梅」の名物だ。1844年、初代の岡田梅次郎が創業してから、道頓掘で最も長い174年の歴史を持つ老舗。開高健や池波正太郎らが通い、その作品にも描いた当時そのままの、昭和が漂う木造瓦葺(ぶ)きの店内に、太平洋戦争もリーマンショックも乗り越え、脈々と受け継がれてきた味がある。

Photo Masahiro Goda Text Rie Nakajima

上等な酒と鯨のさえずり®、たこ甘露煮。この三つが、おでん屋(大阪でいうところの関東煮屋「かんとだきや」)「たこ梅」の名物だ。1844年、初代の岡田梅次郎が創業してから、道頓掘で最も長い174年の歴史を持つ老舗。開高健や池波正太郎らが通い、その作品にも描いた当時そのままの、昭和が漂う木造瓦葺(ぶ)きの店内に、太平洋戦争もリーマンショックも乗り越え、脈々と受け継がれてきた味がある。

たこ梅のおでん鍋は、常にぐつぐつと沸騰させている。練り物や野菜のほか、名物の鯨のさえずり®やコロ、すじが煮込まれている。仕込み中はこまめに出汁を足し、食材そのものの味を感じつつ、しみ渡る味わいに仕上げる。
たこ梅のおでん鍋は、常にぐつぐつと沸騰させている。練り物や野菜のほか、名物の鯨のさえずり®やコロ、すじが煮込まれている。仕込み中はこまめに出汁を足し、食材そのものの味を感じつつ、しみ渡る味わいに仕上げる。

さえずり®とはヒゲクジラの舌のことで、鰹出汁にこのさえずり®を入れ、独自の仕込みで作った出汁が「たこ梅」の味だ。関東煮に鯨の舌を入れたのは梅次郎のアイデアで、客が口の中で鯨の舌を噛(か)む音が「小鳥のさえずりのようだ」と名づけたという。前日の出汁に新しい出汁を足し、食材の旨みを含んで日々引き継がれてきた秘伝の出汁だ。

店内の価格表一つとってもノスタルジックな雰囲気。海老茶地に白く「たこ梅」と染めた大きな暖簾がかかる本店には、道頓堀一、そして「日本一古いおでん屋」にふさわしい情緒がそこかしこにある。
店内の価格表一つとってもノスタルジックな雰囲気。海老茶地に白く「たこ梅」と染めた大きな暖簾がかかる本店には、道頓堀一、そして「日本一古いおでん屋」にふさわしい情緒がそこかしこにある。

おでんとの違いについて「たこ梅」本店の店長、和田訓行氏は言う。

「おでんは、沸騰させずに温めますよね。それに、何を食べてもおでんの味になる。うちの関東煮は、ある程度味が入ると、それ以上味がいかないように食材がコーティングされるので、沸騰させています。じゃがいもならじゃがいも、大根なら大根の、食材そのものの味がするのが関東煮。浅く炊くということではなく、こんにゃくなら5日、さえずり®なら1週間仕込んで、しっかり味をしみこませています」

コの字形のあめ色になったヒノキのカウンターの中で“鍋番”をする店長の和田訓行氏。初代の梅次郎がカウンター越しに手を伸ばし、酒やアテを四方八方に供する姿がたこに似ていたというのが店名の由来だ。
コの字形のあめ色になったヒノキのカウンターの中で“鍋番”をする店長の和田訓行氏。初代の梅次郎がカウンター越しに手を伸ばし、酒やアテを四方八方に供する姿がたこに似ていたというのが店名の由来だ。

「かんとだき」という名の由来は、中国・広東省の人がごった煮を食べているものを見て、アレンジしたからだという説もある。広東省の「カントンだき」を、大阪風に縮めて「かんとだき」。諸説あるが、単純に関東のおでんを大阪に持ってきたわけではないので、ちくわぶやはんぺんはない。

たこ甘露煮は、真蛸(まだこ)を伝統の出汁で炊いた、店に来た客が必ず食べるという定番。江戸時代、いい酒を上々に燗(かん)をつけて出す店のことを「上燗屋」といい、梅次郎が上燗屋として店を始めたことから以来、酒にもこだわっている。西宮の宮水と兵庫県産の山田錦から醸された純米酒を、ハンドメイドの錫(すず)のタンポで湯煎し、じっくりと燗をつけていく。錫の持つイオンでまろやかさを増した酒が、関東煮のやさしい味わいにぴたりと合う。

鯨のさえずり®は今は900円だが、30~40年前の一時期は1本1500円の超高級品だった。普通のサラリーマンには手の出せない値段だったからこそ、「たこ梅で食べられるようになれば一人前や」というステータスになったという。今は店長の和田氏の采配で、若い世代も積極的に招き入れ、卵や大根など安くて旨い種から味わってもらう。スタイルは変わっても、決して変えないのは店の味だ。

「親が子を連れ、子が成長してその子を連れてと、3世代、4世代で来ていただいているお客様が多いのがたこ梅です。15年ぶりに来たお客様にも『そう、この味や』と言ってもらえれば勝ち。そこは、受け継いでいかなあかんな、と思うてます」

●たこ梅本店
大阪市中央区道頓堀1-1-8
TEL06-6211-6201

※『Nile’s NILE』2018年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

What is luxury?

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Questioning this has now become synonymous with confronting the times. We are now witnessing a transformation of values on a global scale.
Sustainable, SDGs, ESG...... these terms are becoming a natural part of our daily lives. Many brands and companies have already begun to take this stance, as individuals and society as a whole are expected to become more aware of the importance of sustainability. In "NILE PORT," we would like to rethink and re-present luxury in the current era, sharing our values with brands and readers who have a progressive awareness.