
つまり、この料理は、まったく「ただの焼いた仔羊」ではない。プロの発想と技術で、伝統料理をガストロノミーに昇華させた一品なのだ。さらに言えば、飯塚さんの歩んできた道のりも反映している―若いときにフランス料理に憧れ、必死で技術と知識を身につけ、フランスに行って郷土性や歴史に感動した。そうした経験がこの料理のベースにはある。
「この料理を見たときに『なんだ、ただの焼いた仔羊か』と判断する人もいれば、視点を変えて『下にラタトゥイユが隠されている、凝っているな』と気づく人もいるでしょう。さらに、『ラタトゥイユと仔羊という伝統を踏まえたうえで、それを洗練させている』ということにおもしろさを感じる人もいるかもしれない」
こうした“食べる側の受け取り方”を、料理人はコントロールできない。
「ウォーホルのアートも同じでしょう? 『写真に色をのせただけ』と、アートだと認めない人もいれば、『大量生産の時代を斬新に表現している』と感動する人もいる」
今回、ウォーホルの言葉を深く掘り下げてインスピレーションを得た飯塚さん。「苦労しましたよ! お題をもらってから2週間以上、このことがずっと心に重くのしかかって……。それに実はウォーホルのことは深くは知らなかったので、YouTubeでたくさん勉強しました(笑)」
最終的にこの料理を思いついたのは撮影の3日前。「今は解放感しかない(笑)。あとは、この料理の写真を見た人に、すべてをゆだねます」