世界中のオーディオ愛好家が、いつか実現したいと願うセットアップがある。イタリアのソナス・ファベール社製のスピーカーシステムを、ドイツのブルメスター社製のアンプでドライブさせること、それは一つの夢と言っていい。
「音の工房」を意味するラテン語を社名とするソナス・ファベールは、イタリア北部、ヴェネチアにほど近いヴィチェンツァで1983年に創業されたスピーカー専業メーカーである。歯科技師だった創業者、フランコ・セルブリン氏が理想のスピーカーシステムを自作したことをルーツとする。
琴線に触れる豊かで繊細な表現力はもちろん、イタリア伝統の木工技術と皮革製品の技法を駆使し、美術工芸品の域にまで達した外装も高く評価され、最も人気の高いスピーカーブランドの一つに数えられている。マセラティのスーパースポーツカー「MC20」のオーディオに同社のスピーカーが採用されたことも話題をさらった。
ブルメスターは、1977年にドイツ・ベルリンで創立。ファウンダーのディーター・ブルメスター氏は、プロのギタリストとして活躍後、電子技術を学び直し、医療用測定器の設計・製造を経て、関心の深かったオーディオ機器開発に転じる。創業間もなく発表したプリアンプ「777」が評判となり、その後も改良を重ね、製品ラインアップの拡充を図り、ドイツを代表するハイエンドオーディオブランドとしての地位を確立。
「Art For The Ear」をスローガンに掲げ、約300項目もの検査・測定を実施する一方、数値だけでは測れない感性に訴えかける音を追求し続けている。メルセデス、ポルシェ、ブガッティなどが純正カーオーディオに採用していることも品質を証するものだろう。
ここでは、ストラディヴァリウスの名器をオマージュしたソナス・ファベールのスピーカーシステム「イル・クレモネーゼ」に、ブルメスター社の最上位カテゴリーであるリファレンス・ラインのCDプレイヤー「069」、同じくプリアンプ「077」、そして1991年の初号機から熟成・進化を重ねてきたブランドの代名詞的パワーアンプの第3世代「911Mk3」というセットアップを組んだ。
イタリアとドイツという国の違いはあれど、最先端技術と伝統技法を融合・最適化し、手作業を重視するスタンスや、再生芸術としての方向性がマッチし、聴く人の感性に訴えかける絶好の組み合わせ。片や木目を生かしたオーガニックな外観、片やメタリックで端正なバウハウススタイルの機能美。その対比も、インテリアに立体的な奥行きを与えてくれる。
心ゆくまで音楽世界に没頭できるのは言わずもがな。ボリュームを絞った際も帯域バランスが崩れず、ホームパーティーなどで長時間音楽をかけ続けても心地よい。
聴く感動、音が紡ぎ出す癒やし、所有する喜び、そして居住空間をトータルにレベルアップさせる満足感。そんなハイエンドオーディオの世界の扉を開けてみてはいかがだろう。
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※『Nile’s NILE』2021年8月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています